硬質アルマイト表面処理加工
ハードコートとは アルマイト加工例
アルマイトの名称の起源

宮田 聰

試みにアルマイトと云う語を辞書で引いてみる。

1. アルマイト(名)
[alumite] [理] アルミニウムの表面を酸化させて膜(マク)を作ったもの、酸化腐食(フショク)に強い。
[金田一京介 国語辞典(三省堂)]
2. アルマイト、アルミニウムの表面を酸化させて膜を作り腐食しにくくしたもの。商品名。
[西尾実、岩渕悦太郎(岩波書店)]
3. アルマイト(日、alumite)アルミニウム上に耐蝕性酸化皮膜を作ったもの、商品名、蓚酸硫酸などの溶液中でアルミニウム板を陽極として電解すると表面に多孔質ではあるが、電気絶縁性が高く、かつ耐耗性の酸化皮膜を生ずるので、さらにこれを加熱水蒸気で加圧処理して防蝕性を高める。電解するとき、直流と同時に交流を流すと、被膜の性能は一層よくなる。この処理法をドイツではエロキザル(Eloxal)法、英米ではアルミライト(alumilite)法と云う。
[岩波理化学辞典]

 非常にありふれた言葉になってしまったので、よく人口に膾炙され、ラジオでも週間誌でも時々お目にかかるようになった。しかしその起源に触れているものは一つもない。どうしてこんな名前をつけたかは、命名者のみぞ知るで、探しても調べても、出てきっこないので、ここにそれをご披露することにする。
 理化学研究所の研究が段々進んできた一段落の所で、すなわち岩波の理化学辞典にある程度のことが大体できる時点に立って、これは仲々役に立つ、世の中のお役に立ててみようではないかと云うことになった。ついてはアルミニウム陽極酸化皮膜などと一々堅苦しいことを繰り返していたのでは始らぬ。何とか俗名をつけて、簡単明瞭な愛称で呼ばなければならぬ。何と命名したものであろう。
一、 詩歌でも俳句でも、五音がきまり文句で、最も自然で口ざわりがよい。
一、 アルミニウムに因んでいる事がすぐに連想されるものがよい。
一、 述べるに円滑容易で、聴いて軽快明調なものがよい。
その頃よく通用していた言葉に、ベークライト(Bakelite)と云う語がある。これはDr. Leo H.Bakelandの発明になる石炭酸樹脂製品である。これを御手本にすると、因のある名前の最後を省略して、iteと云う字が接尾的につけてあることになる。そうすると、これで解決できたことになる。因んでいるようにしたいものがアルミニウムaluminum、而も語尾の(i)umは化学元素であることを示すに過ぎないとすれば、aluminiteアルミナイトにすべきである。しかしこれでは七音語である。日本語でもアルミニウムの事を短縮してアルミと云うだけでよく通じるとすれば、アルミナイトを修正してアルマイトalumiteとしても大過なかろう。そこでアルマイトに一決した。早速特許局に申請して名称登録をとった。正確には、それはアルミニウム陽極酸化皮膜を応用して作った色々な器具物品につけた名前であった。

先年外遊した時、欧文の名刺を作って、名前をA.Miyataと印刷した。英人はミヤタと発音することができないので、皆マイアタと云う。そこでイニシャルをつけて、私にはミスタ.アルマイトと呼んでるように聞へた。本当はエー.マイアタと呼んでいるのであろうが、聞く方が我田引水もあり、それに早口の聞きぼけも兼ねて、アルマイトと聞いて気をよくした。

アルミニウム研究会記念誌 1990 No,9 通巻250号より抜粋

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